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コラム

2018.09.17

情報共有と経営

企業を巡るさまざまなスキャンダルは、古今東西絶えることがありませんが、スルガ銀行を巡る乱脈融資問題は、その特殊性も手伝ってテレビのワイドショーなどでも取り上げられているようですね。いささか旧聞に属しますが、最近では東芝の不正会計問題も世間の耳目を集め、連日「これでもか」というくらいメディアを賑わしました。

これらと同根の問題は、規模の大小こそ違うものの毎日のようにどこかで発生しています。ではなぜこのような問題がなくならないのか、どうしていつもどこかで発生するのか、今日はその点についてお話しします。

 会社組織にあっては、それがトップダウンの場合でもボトムアップであっても、最終的には経営の意思決定に基づいて前線部隊が活動するわけですが、経営と前線部隊の間には、営業の現場で起きていることを巡って情報量に決定的な差異が生じます。というのも前線部隊は現場をよく知っており、経営は前線部隊から上がってくる情報のみを判断の基準にせざるを得ない立場に立つことが多いからです。

ここで発生している状況を「情報の非対称」と言い、この関係を経済学では「プリンシパル・エージェンシー理論」という考え方で説明していますが、どの情報をいつどれだけ上に伝えるか、について決定権限を持つのは前線部隊、ということになります。最終的にはすべての情報を報告する義務があるとしても、その順番やきめ細かさ(情報の粒度といいます)は一義的に前線部隊の裁量に負うところが大きいのです。
 
 エージェンシーたる前線部隊は、プリンシパルたる経営者の代理人として業務の遂行を通じた収益の最大化を期待されていますので、プリンシパルが示した経営理念や経営目標に沿って最大限の努力を果たすのがその役割のはずです。

 ではなぜそこで、最終的には乱脈経営と批判されるような暴走やトラブルが起きるのか?スルガ銀行の事例でも東芝問題についてもそうでしたが、前線部隊にとってはきわめて尖った経営目標があり(スルガ銀行の場合はこのご時世にあって突出した利益の確保、そのための個人融資を中心としたビジネスモデル、東芝の場合は過重な収益目標設定)、彼らはその達成を期待されたエージェンシーの立場にいたわけです。

そうなると、目標の達成が難しい場合は特に、「要は○○さえすれば良い」という、前線部隊による目標の絞り込みが発生します。この結果がスルガ銀行の場合は「要は(リスクがあっても)個人が運営するハイリターン物件への融資金額が確保できればよい」であり、東芝の場合は巨額損失も手伝って「要は報告用の数字が出ればよい」という、エージェンシーとしてのタスクの単純化だったわけです。

このプロセスが、「手段の目的化」です。すなわち、本来であれば融資金額を高めるのは収益向上という目的達成のための手段にすぎなかったはずなのに、難しい目標を達成するための対策によって、手段を採用すること自体が行動の目的になってしまっているのです。

常にプレッシャーと対峙しなければいけないビジネスの現場ではよくありがちな話だと思うのですが、経営者はそれがもたらすリスクをしっかりと管理することが求められます。なぜなら過剰なリスクによって目的を損ねるようでは全く本末転倒と言わざるを得ないからです。

その意味で報告用の数字の確保などは、ずいぶん下位の手段にすぎず、そこまで譲歩しないと仕事ができなかった東芝の前線部隊は誠にお気の毒と言わざるを得ませんが、いずれにせよ前線部隊についてはプレッシャーの存在が、「手段の目的化」などタスクの絞り込みの誘因となり、最終的には「情報の非対称」を使ってプリンシパルたる経営との間に情報共有の隙間を作らせるきっかけになるのです。

 経営も前線部隊も、事業を通じた会社の繁栄と社会の発展を願っていることに変わりはないのに、現実問題としてなぜこういうことが起きるのか。そういう現実を目の前にして、経営者が取らなければいけない行動は何なのか。二つの事例は大変重要なことを示唆してくれているのではないでしょうか。

 あなたの会社では、前線部隊との情報共有に隙間が生じていることはありませんか?

2018.09.04

上手く聞き出すための工夫とは

 経営者と社員の立場を比べると、その決定的な違いの一つに、日中どれだけ現場に立つ時間を割けるかという点があります。経営者たるもの、ポリシーとして現場最優先を掲げていても、よほどの零細企業を除いて自身が朝から晩まで現場に立てるケースは多くありません。そうなると、現場の情報については社員からの報告に多くを頼らざるを得なくなります。

 ところが、定型で求められている報告事項を除くと、必ずしも報告の仕方が上手くない社員も少なくありません。そういう場合に欲しい情報を上手く聞き出すための工夫があれば良いのに、と感じたことのある方も少なくないのではないでしょうか?

 ヒアリングした情報の『質』をチェックするために、よく使われる視点が「粒度・鮮度・確度」という3つのポイントです。まず「粒度」ですが、たとえば今週の売上がどうだったか、という質問に対しては、ざっくりと対前週で上がった・下がったを答えてくれるような場合と、日次変動を加味して水曜日と木曜日は目標達成率105%だったが、金曜日は台風で客足が鈍り、90%にとどまった、などと細かく答えてくれる場合があろうかと思います。

この例だと前者は粒度が粗く、後者は細かいと言えるのですが、何のためにこの情報が欲しいのか、その目的によって求める粒度も変わってきます。なので、単に「売上、どうだった?」と聞くよりは、「この前の台風の影響を知りたいんだけど、売上はどうだった?」などのように目的を併せて質問に織り込めば、粒度を合わせた回答を期待することができます。

 次に「鮮度」ですが、基本的には即時性の高い情報が良いとされている場合が多いです。そのため、報告する情報に加工が必要な場合は、社員にとって加工のための事務工期が意外なプレッシャーになる場合があります。いついつまでに何の数字を作らなければならないというようなタスクは、残業の理由としてよく聞くパターンではないでしょうか。ですので、経営者たるもの日常の報告に必要な数字についてはなるべく予め定例報告に織り込むように仕掛けを作り、社員の負担を軽減する配慮をしておく必要があります。が、どうしても、と言う場合には仕方ありません。社員に負担を強いた部分を慰労する機会を作る等して、貢献に報いるようにしてください。

 最後に「確度」についてですが、いわゆる裏付け取りをきちんとできていれば可とすべきでしょう。フロア長など中間管理職からの報告の場合、それは本人が直接見聞した話なのか、アルバイトやパートからの聞き取り情報なのかによっても確度は変わってきます。気になったらフロア長同席のうえで直接アルバイトやパートに話を聞きにゆく、くらいのフットワークの軽さは、経営者たるもの常に持ち合わせていたいものです。

 多くの場合、経営者は社員から聞いた情報を集め、組み合わせて判断に供するというルーティンを踏んで仕事をしているわけですが、その中にあって情報の質を保つための工夫として、常にこの3点を意識しておくのがお勧めです。

① 粒度は聞く側の工夫によって管理できる
② 鮮度は情報を用意してくれた社員に対する感謝を忘れずに
③ 確度は必ず裏付け取りを。必要なら情報源に直接あたる。

 「多くの人間は、自分が見たいようにしか物事を見ようとしない」古代ローマの英雄、ユリウス・カエサルの言葉だそうですが、経営者たるもの、聞きたい情報もそうでない情報も、一定の品質を保って情報収集に努めたいものです。

 あなたの会社では、情報の品質管理について、きちんと工夫ができていますか?

2018.08.28

入るなら、人を大切にする会社

まだ暑い日が続く8月下旬、世の中では大学三年生を対象としたインターンシップや企業説明会が花盛りです。人手不足と「働き方改革」が言われる中で、今年は空前の売り手市場だそうですが、そうなると企業側は「人を大切にする会社」であることを前面に出して、少しでも学生に気に入ってもらえるような努力をします。

 具体的には、有給休暇の取りやすさや充実した福利厚生、残業の少なさ、転勤について本人の希望を重視する、副業OK、その他さまざまな特徴を訴えるわけですが、どの企業も同じような点を説明するので、学生側もだんだん耳が肥えてきます。では、学生側はどんな企業を探しているのでしょうか?

 最初のうちは大人しく企業側の言うことを聞いていた学生も、説明会出席の回数を重ねるごとに、この企業はなぜ人を大切にしようとするのか?他の会社と考え方の違いは何なのか?そんな視点を持ちながら、説明会を廻るようになってきます。

 企業側のホンネを突けば、とにかく人が足りない、人手を集めなくてはならない、優秀な学生を他社に取られてしまわないよう囲い込みたい、あるいは他社になびいている学生を何とか自社に振り向かせたいその他、一言で言えば「人を取りたい」ということに収斂するわけですが、学生側は全員が必ずしも「人並みに就職したい」と考えているわけではないところに微妙な不一致点が出て来ます。

 非常勤で講義をしている大学で学生に接していると、今も昔と変わらず卒業後の就職が学生にとって人生の一大イベントであることを感じます。ただ8月くらいの段階では、自分の考えを明快に語れる学生とそうでない学生の間にまだ相当のバラつきが見られます。実際には仕事へのやりがいを求める学生、転職や起業を通じたステップアップを志向する学生、ネットワークの充実を図りたい学生、広く人生経験の機会を求める学生その他、さまざまな希望があるのですが。総じて言えるのは学生側の考え方は労働条件よりも働くことの意義ややりがいなどに重点を置いたものになるケースが多く、労働条件は確かに大切だが、決定的な要因にはなりにくいようです。

 インターンシップを通じて、企業側が面接では見えない学生の人柄や考え方を見極めたいと考えているのと同じように、学生側もまたインターンシップを通じて世の中にはどのような企業があるのか、そもそも人生についての自分の希望は一体どんなものなのか、そしてそれを叶えるためにこの企業は向いているのか、というようなことを確かめようとしています。

 学生側が好印象を抱く企業の典型は、インターンシップを通じてそのような懐の広い対応ができる会社であり、さらに言うと仕事のやりがいについて学生が「なるほど」と感じるようなアドバイスのできる担当者がいる会社です。

 入るなら、人を大切にする会社が良いと考える点は、多くの学生が共有するものだと思います。会社としてなぜそうするのかを分かりやすく説明できないと、通り一遍の説明となり、学生に納得感を持ってもらうには至りません。あなたの会社は、インターンシップに来る学生に対してしっかりとそれを訴求できていますか?