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コラム

2018.10.02

投資の意思決定と従業員

企業経営者にとって、事業の売買や設備投資など、長期的な視点に立った投資の意思決定ほど精神的なプレッシャーを感じる瞬間はないのではないかと思います。

究極は、「儲かるかそうでないか」を判断する、と言うことに尽きる話です。どれだけ情報を集めてみたところで、またあれこれ与件をいじってみたところで、最終的には経営者の判断力にかかってくる話と言われればそれまでの話なのですが、目を通すのが収集された情報の結論部分だけでは、いかな名経営者といえども意思決定を誤る確率が上がってしまうのです。それはなぜか?

意思決定に向けて経営者が求める情報を、営業最前線から拾ってくるのは、多くの場合従業員の役目になるのだろうと思います。彼らは展示会に出たり、金融機関の話を聞きに行ったり、役所のセミナーに出たりして、経営者が求める(と思われる)情報を拾ってくるわけです。

その中から、経営者が求める情報をピックアップして報告するあたりまでが従業員の仕事とされているケースが多いのだろうと思うのですが(実際には各社で仕事の線引きがどうなっているかにもよります)、本当の投資判断に向けた情報は、取捨選択後のものもそうですが、どのような情報からそれらが選択されたのか、集めた全体情報から重要な要素が選ばれるプロセスに、意外と意味があるという場合があります。

たとえば積算単価を決めるために複数の会社から見積もりを取り、その平均値を採用すると言った場合、なぜだか一社とてつもなく安い(高い)札を入れてきたような場合がそれにあたります。同じ地域の同業他社であればある程度価格的にも収斂しそうなものですが、それがそうならなかったのはなぜなのか。

とりあえず採用する価格平均値の計算に、その数字を入れるべきかそうでないかなども、考え出すと時間が足りなくなること間違いないのですが、このあたりはめんどくさそうに見えても、多くは手足を動かして、懸念材料をつぶしておいたほうが良い類の話です。

このあたり、社員にまかせっきりにしておくと、前線の皮膚感が抜け落ちた意思決定になってしまいかねません。投資の意思決定につながる情報収集について、意思決定者の求める情報が何なのか、そのために従業員は何を経営者と共有しなくてはいけないのか。

長年一緒にやってきて、経営者の呼吸が分かっている「右腕」なら、言われなくても目配りできる話なのかもしれません。仮にそうであったとして、その「右腕」の仕事ぶりを尊敬し、その信用に足る意思決定をしようと思うなら、経営者のほうも階段を一段降りて、最終的に情報がどのように取捨選択されてまとめられたのかについても、従業員と情報を共有することを強くお勧めします。そうすることで、社員と認識を共有した立体的な意思決定が行えるようになり、「まさか」のミスが減らせるようになるのです。

あなたの会社では、プロセス情報を割愛して従業員から上がってきた最終成果物だけを見ていませんか?

2018.09.25

社会正義と経営と従業員

 インターネットの普及が進み、すでに社会インフラとして欠かせないものになったことで、大きく変化したのが情報の伝わりやすさ・漏れやすさだという認識は疑いようのないところだと思います。大企業のスキャンダルはあっという間に拡散され、芸能人の何気ないコメントがSNSで炎上する、といった類のエピソードはインターネット時代ならではの出来事でしょう。企業経営者にとっても看過できない社会の変化です。

 他方で、社会学的にこれらの現象を説明する概念は、メディアなどでまだ市民権を得ていない段階だと思います。なので、ここでは仮に物理学で物質が持つ熱の伝わりやすさを示す熱伝導率になぞらえて「社会の情報伝導率」という呼び方を使って説明します。

 インターネットはおろか、携帯電話もFAXもなかった時代、社会の情報伝導率は今とは比べ物にならないくらいに低いものでした。企業経営者や為政者は、自分たちにとって不都合な情報も、秘匿や囲い込みができるはずという判断に傾く事例も少なくありませんでした。実際は、後になって隠していたはずの情報が明らかにされ、社会正義に反する行為であると糾弾されることになるケースも多かったのではないかと思うのですが、公害を発生させた企業が地元行政と結託して頬被りを決め込もうとした水俣病の事例は、その中でも典型的なものです。

 それに比べると現在は、インフラとしてのインターネットが整備されたことに加え、SNSなどさまざまなサービスが上部構造として発達し、ユーザーのリテラシーも向上してきているなど、社会の情報伝導率が今も止むことなく高まり続けています。ちょっと前なら、飛行機で移動している時間にはインターネットでの連絡がつかなかったはずなのに、このところ大手航空会社が競って機内Wifiサービスの充実を図っており、まもなくするとインターネットが使えないのは離着陸時のごく短い時間のみ、という時代がやってくることはまず間違いなさそうです。

 そうなると、企業経営者の立場でも社会正義へのコンプライアンス対応が今まで以上に重要な課題になってくると考えられます。今や、世界のどこにいても発生した事件について即応することが求められる時代になったということです。災害時の事業継続手順を定めたBCPの実践や、会社が関係したスキャンダル、あるいはテロや国際犯罪による被害など、あらゆることに即時性を持って対応しないと、それがどういう理由であれ「遅い」というだけで批判される時代になりつつあるということです。

 経営者にとっては潜在的な負担が増すばかりの、正直に言えばありがたくない社会の進化かもしれませんが、こういった情勢にいち早く対応することは、従業員から見れば会社を信頼するための前提条件になります。即時性を持った情報開示・情報共有に積極的「でない」会社は、勤務先としてちょっとどうなのよ、と考える人がどんどん多くなる、ということですね。そしてそれは、日常の小さな問題にも当てはめられて考えられるようになります。

 従業員にとっては以前であれば、居酒屋で同僚や親しい友人を相手に酒を飲みながら、上司の悪口と一緒に吐き捨てられていたような、職場を巡る小さなトラブルや、程度は軽くとも雇用や待遇に関わる不明朗な対応なども、会社側には是正の用意があるにもかかわらず、即応できないというだけで内部告発や書き込みの対象になるかもしれません。経営者としては、そういう事態がいつ起きてもおかしくないと、心のどこかに留めておくことが求められる時代になったということなのです。

 「社会の情報伝導率」は今後も高まり続けるものと思われます。そうした中で従業員の信頼を得続けるためには、小さな問題でも隠さず遅滞なく開示し解決するなど、一歩先んじて「良いことをする会社」であることを証明し続ける努力以外に解決策はないのです。

 あなたの会社では、社員とのコミュニケーションを通じて積極的にトラブル情報の開示を行っていますか?

2018.09.17

情報共有と経営

企業を巡るさまざまなスキャンダルは、古今東西絶えることがありませんが、スルガ銀行を巡る乱脈融資問題は、その特殊性も手伝ってテレビのワイドショーなどでも取り上げられているようですね。いささか旧聞に属しますが、最近では東芝の不正会計問題も世間の耳目を集め、連日「これでもか」というくらいメディアを賑わしました。

これらと同根の問題は、規模の大小こそ違うものの毎日のようにどこかで発生しています。ではなぜこのような問題がなくならないのか、どうしていつもどこかで発生するのか、今日はその点についてお話しします。

 会社組織にあっては、それがトップダウンの場合でもボトムアップであっても、最終的には経営の意思決定に基づいて前線部隊が活動するわけですが、経営と前線部隊の間には、営業の現場で起きていることを巡って情報量に決定的な差異が生じます。というのも前線部隊は現場をよく知っており、経営は前線部隊から上がってくる情報のみを判断の基準にせざるを得ない立場に立つことが多いからです。

ここで発生している状況を「情報の非対称」と言い、この関係を経済学では「プリンシパル・エージェンシー理論」という考え方で説明していますが、どの情報をいつどれだけ上に伝えるか、について決定権限を持つのは前線部隊、ということになります。最終的にはすべての情報を報告する義務があるとしても、その順番やきめ細かさ(情報の粒度といいます)は一義的に前線部隊の裁量に負うところが大きいのです。
 
 エージェンシーたる前線部隊は、プリンシパルたる経営者の代理人として業務の遂行を通じた収益の最大化を期待されていますので、プリンシパルが示した経営理念や経営目標に沿って最大限の努力を果たすのがその役割のはずです。

 ではなぜそこで、最終的には乱脈経営と批判されるような暴走やトラブルが起きるのか?スルガ銀行の事例でも東芝問題についてもそうでしたが、前線部隊にとってはきわめて尖った経営目標があり(スルガ銀行の場合はこのご時世にあって突出した利益の確保、そのための個人融資を中心としたビジネスモデル、東芝の場合は過重な収益目標設定)、彼らはその達成を期待されたエージェンシーの立場にいたわけです。

そうなると、目標の達成が難しい場合は特に、「要は○○さえすれば良い」という、前線部隊による目標の絞り込みが発生します。この結果がスルガ銀行の場合は「要は(リスクがあっても)個人が運営するハイリターン物件への融資金額が確保できればよい」であり、東芝の場合は巨額損失も手伝って「要は報告用の数字が出ればよい」という、エージェンシーとしてのタスクの単純化だったわけです。

このプロセスが、「手段の目的化」です。すなわち、本来であれば融資金額を高めるのは収益向上という目的達成のための手段にすぎなかったはずなのに、難しい目標を達成するための対策によって、手段を採用すること自体が行動の目的になってしまっているのです。

常にプレッシャーと対峙しなければいけないビジネスの現場ではよくありがちな話だと思うのですが、経営者はそれがもたらすリスクをしっかりと管理することが求められます。なぜなら過剰なリスクによって目的を損ねるようでは全く本末転倒と言わざるを得ないからです。

その意味で報告用の数字の確保などは、ずいぶん下位の手段にすぎず、そこまで譲歩しないと仕事ができなかった東芝の前線部隊は誠にお気の毒と言わざるを得ませんが、いずれにせよ前線部隊についてはプレッシャーの存在が、「手段の目的化」などタスクの絞り込みの誘因となり、最終的には「情報の非対称」を使ってプリンシパルたる経営との間に情報共有の隙間を作らせるきっかけになるのです。

 経営も前線部隊も、事業を通じた会社の繁栄と社会の発展を願っていることに変わりはないのに、現実問題としてなぜこういうことが起きるのか。そういう現実を目の前にして、経営者が取らなければいけない行動は何なのか。二つの事例は大変重要なことを示唆してくれているのではないでしょうか。

 あなたの会社では、前線部隊との情報共有に隙間が生じていることはありませんか?